▼インプラントの基礎知識
▼インプラント治療の手順とポイント
▼インプラントの構造・材質・形状
インプラントの構造と名称
抜歯後、骨にフィクスチャーを埋め込みます。骨には痛覚はありませんし、麻酔の注射にも万全のシステムを導入していますので、ご安心下さい。骨としっかり結合したところで、フィクスチャーにアバットメントを取り付けます。その後、このアバットメントに人工の歯を取り付ければ、インプラントは完成です。
造骨手術と骨移植
不可能を可能にした技術革新
かつては、以下のようなインプラントを植立させるための充分な骨の厚さがない(薄い)方は、手術を諦めざるを得ませんでした。
- 糖分の多い食事(和食)などが原因で、歯周病が増加傾向にある方
- 歯を抜きっぱなしのまま長期間放置していたために、顎の骨の吸収が進んでしまった方
- 加齢によるホルモンバランスの変化などによって、骨粗しょう症になってしまった方
しかし、インプラントにおける技術の進歩は目覚しいものがあり、GBR(骨再生誘導療法)、サイナスリフト、ソケットリフト、骨移植法などによって、今では全身的に重度の問題がある場合など、ごく少数の例外を除いて、ほとんどの方がインプラント手術を受けることができます。第3の永久歯による、快適な生活を楽しむことができるのです。
GBR(骨再生誘導療法)
GBRとは(Guided Bone Regeneration)の略で、直訳すると「骨を元に戻す」という意味です。つまりGBRとは、骨の組織再生によって、失われた骨と同じ形態・同じ機能を回復させようという方法です。
インプラントを植立させるには、最低6ミリ以上の骨幅が必要ですが、歯を抜いたまま長期間放置した場合、充分な骨幅が取れないことがあります。その理由として、生体には骨を作らない細胞(繊維芽細胞)が骨を作る骨芽細胞よりも早く欠損部へ分化して移動してしまうと考えられているからです。
しかし、人工的な膜(メンブレン)で繊維芽細胞を遮断することによって、新しく骨を再生することができます。GBRでは骨を増やしたい場所にスペースを作り、骨の元となる血液を溜めたあと、人工膜で覆って骨を誘導します。おおむね6ヶ月後には充分な骨が得られます。
サイナスリフト
サイナスとは、頬の骨にある骨空洞(上アゴ洞)のことです。上アゴ洞は、蓄膿症で炎症を起す副鼻腔の一部で、この空洞があるために上アゴの骨は下アゴより薄くなっています。ですから、上アゴにインプラントを植立する場合は、必ず上アゴ洞の位置と骨の厚さを確認しておかなければなりません。
サイナスリフトは、頬側の骨に窓空けをして上アゴ洞の内面を覆う粘膜(シュナイダー膜)を持ち上げ、そこに自家骨を移植して持ち上げた空間に骨を作る方法です。骨がしっかりしてくるのに6ヶ月以上かかる場合もありますが、部分入れ歯で一生苦労することに比べたら、患者様の負担を大きく軽減する処置だと思います。
ソケットリフト
ソケットリフトは、サイナスリフトと同じように骨が薄い上アゴに用いられる、より簡単な造骨法です。一般的に骨の厚みが5ミリ以上ある場合に行います。
手術は、まず歯肉を切開して、歯槽骨にインプラントを植立する穴を短めに開けます。その後、薄くなった上アゴ洞底部の骨を槌打ちしながらゆっくり持ち上げ、インプラントを埋入して骨を厚くしていきます。最近の新しい術式では、ソケットリフティングした個所に自家骨とPRPを混合した骨移植材を充填することで、より積極的に増骨する方法がとられています。
いずれにしてもインプラントの造骨手術については、信頼できる歯科医から事前に説明をよく聞き、納得した上で受けて下さい。
骨移植
移植材として、自家骨(自分の骨)以外にも、人工骨や同種他家骨、異種他家骨、コラーゲン製剤などがありますが、拒絶反応やエイズ、BSE(いわゆる狂牛病)などの問題を考えると自家骨以外は使うべきではありません。
自家骨で主に使われるのは、オトガイと呼ばれる下アゴの前部や上アゴ結節部、下アゴ上行部、前鼻棘部の骨です。柔らかい海綿骨を砕いたものを移植する方法と、ブロック状の大きな骨を移植する方法がありますが、術後6ヶ月でその50%が吸収してしまうというデータがあります。術後の移植骨の吸収を防ぐ保護膜として、ブロック状の大きな骨と砕いた骨を併用して、メンブレンやチタンメッシュを使うこともできます。
骨移植の成功にはいくつかのポイントがありますが、一番大切なことは、術後の歯茎が確実に治っていることです。術後の細菌感染は、骨移植ならびにインプラントにとって致命的な失敗になります。そのためには、適切な歯茎の縫合、術前術後の抗生物質の投薬を含めた対処が大変重要です。
PRP法
PRP(Platelet Rich Plasma)とは、通常の採血量の1/40の量(約10CC)の血液を、特殊な遠心分離機を使って血球と血漿を分離し、多くの成長因子(細胞増殖因子)が含まれている『多血小板血漿』を取り出すものです。自分の血液を材料とする多血小板血漿を自家骨と混ぜて使用しますが、自家骨移植材のみの場合と比較して、およそ半分の時間で早期に骨化します。
自分の血液を材料とするのですから何より安全ですし、PRPの有効性に関しての論文も、ハーバード大学から発表されています。非常に簡単でコストもかからない有効な手段ですから、歯周病などやインプラントのメンテナンスなど、これからの歯科のいろいろな分野に応用されていくことでしょう。
インプラントの材質
インプラントの材質として使用されているのが、チタン(チタニウム)です。私たちの体は異物(例えば金属)が入り込むと、これを吸収したり排除しようとします。この生体反応の一つが金属アレルギーです。金属はイオン化して、少しずつ溶けていきますが、チタンはイオン化しないため、アレルギー反応がほとんど起こりません。このように、生体親和性が高く拒絶反応が起きないチタンは、口腔内の温度変化にも強く、対腐食性や強度にも優れている上、骨や軟組織が表面によくくっつく性質をも備えた、インプラントに最も適した材質なのです。
オッセオインテグレーション(骨との一体化)
現在、多くのインプラント・システムにおいて、骨と接する表面には主に2種類の材料が用いられています。
- ハイドロキシアパタイト(HA)
骨結合は早いのですが、5~7年で吸収してしまい、表面に炎症性細胞が出現すると、急激にインプラントがダメになってしまいます。 - チタン
多少時間は掛かりますが、骨結合はHAと同等のレベルまで達し、経年変化がありません。
〈表面性状タイプ〉
◆削り出しタイプ:初期のインプラントで、骨結合に1年もかかり手術が2回必要です。
◆TPSタイプ: プラズマ・レーザーを溶射して表面に荒さを与えたもので、骨結合に約3ヶ月かかります。
◆SLAタイプ: サンド・ブラスト処理(表面に硬い砂状の粒子をジェット噴射でぶつける)と酸エッチング処理を併用した表面処理で、6週間で骨結合する上、手術も1回で済みます。
最新のインプラント
従来のインプラントでは埋入後に欠損部を補綴するまでに3~6ヶ月待たなければなりませんでしたが、南カルフォルニア大学のサルゴン・ラザロフ教授によって開発された『サルゴンインプラント』は、その必要がありません。埋入したインプラントの先端を開脚することによって、埋入直後からインプラントと骨との間に強固な初期固定が得られるため、歯を抜いたその日のうちに新しい義歯を入れることが可能となりました。
サルゴンインプラント 4つの特長
- 従来のインプラントのように長期に亘る治癒期間を置く必要がなくなる
- 治療を受けたその日から、新しい歯で食事ができる
- 処置の痛みは全くない
- 機械的なバリア機構によって、感染防止に対する配慮も充分になされている
インプラントの形状
インプラントには様々な形状があり、状況・要望に応じて使い分けています。
- ブレードタイプ(スケート靴の刃のような形)
- バスケットタイプ(中空になっている形)
- シリンダータイプ(ハイドロキシアパタイト・コーティングに用いられる形)
- スクリュータイプ(スレッドと呼ばれるネジ山が切ってある)
※最低でも8ミリ以上の長さが必要です。
現在使用されているものは、スクリュータイプに何らかの表面処理がなされたものです。さらに、インプラントの太さや上部構造(インプラントと義歯をつなげる部分)についても様々な形状のものが開発されてきました。例えば、奥歯などのように強い力がかかる場所には、径の太いタイプを使うことで1本で充分対応できるようになり、より自然な形態の人工歯にすることが可能になりました。